2014年5月21日 瀬賀弘行
13年9月、大町に文庫を開設しました。わたしが村上高等学校の生徒だったころ、おおきな影響をうけた3人の先生がたの蔵書をおさめる予定で、2人分は、おおかた収蔵しました。ここにいたった経緯を、もうしあげます。 73年4月、本間桂先生が47歳で村上高校に英語教師として赴任されました。先生は佐渡のおうまれで、旧制静岡高等学校から45年、新潟医科大学に入学なさいました。新潟大学の第二解剖学を主宰なさった布施教授と同級です。しかし46年には退学なさり、旧制京都帝国大学文学部英文科にすすまれました。その後、新潟県の高等学校の教師となられ、わたしが高校2年生のときに村上高校に、おいでになりました。英文法をおしえていただきましたが、その授業は圧巻でした。たとえば教科書に、be to ~ の用法の例文として、We are to meet at 5. が、のっていたとします。すると、それとおなじ用法のbe to~ の例文を、なにもご覧にならずに、ふたつほども追加されて板書なさいます。それらの例文には出典があり、いつも先生は出典をあきらかになさいました。。聖書、シェークスピア、モーム、ヘミングウェイなどです。ほかの文法書や辞書からひかれているわけでは、ありません。これは先生が、いままでにおよみになった本のなかから、ご自分で抜粋なさっていらっしゃったということです。そしてしばしば、その追加された例文から授業はたのしい脱線をしていくものでした。「新約 ルカ伝 第13章23節 Sir, are only a few to be saved? この be to ~ も、予定のbe to ~ ですね。そこでキリストはこたえます。Strive to enter in by the narrow door. ちからをつくして、せまき門よりいれ。ジッドの小説にとられていますね、狭き門」そこからジッドの「狭き門」に脱線していくわけです。わたしたちは恍惚として、ききいりました。先生はドイツ語とフランス語にも堪能で、ニーチェはドイツ語で、モーパッサンはフランス語で、およみになっておられます。そしてご趣味は漢詩づくりでした。 その先生の息子さんが11年に、ひさしぶりに帰省なさいました。そして先生ご夫妻の自宅をみて、びっくりなさいました。ななつある部屋のうち、よっつが本でうずまっており、ご夫婦は、わずかのすきまで生活なさっていたというのです。その息子さんから、わたしは相談をうけました。「両親は高齢なので早晩、本を管理できなくなるだろう。わたしもあにも、これだけ膨大な蔵書をひきとることはできない。なんとかならないものだろうか」と。ゆかしい本間先生の蔵書です。先生のおひとがらのなりたちに、ふかく関係した蔵書でしょう。よませていただきたい。どこかに、まとめてのこしたい。 そうおもいたつと、故八木三男先生の蔵書も気になりました。先生は村上高校で日本史の講義をなさいました。歴史はドラマとして、かたられました。事件の背後にひそむ時代の精神を、えぐりだすおちからには、おおくの生徒たちが感銘をうけたものです。先生は32年、長岡のおうまれ。京都大学文学部国史学科を卒業なさり、56年から村上高校で、おしえられました。08年におなくなりになりましたが、ご自宅で、わたしが、おみとりしました。先生の書庫にも膨大な蔵書がねむっていました。おくさまにおたずねすると「ひとりむすめは東京。これだけの蔵書を東京の自宅に、もっていくことはできません。あなたに、さしあげましょう」とのこと。 そこで、故大嶋久夫先生の蔵書も、おもいだしました。先生は36年、満州のおうまれ。戦後、平林にひきあげられ、60年に東北大学文学部英文科を卒業なさいました。同年から村上高校で英語をおしえられましたが、広範な教養にささえられた英文和訳は芸術的で、もう、この訳以外の訳はないだろうと、ためいきがでることが、しばしばでした。09年におなくなりになりましたが、おくさまにおたずねすると、「ひとりむすめは仙台在住で、この蔵書を相続するつもりは、ありません。旧神林村の時代に村の図書館に寄付しようとしましたが、辞退されました。ですから、どうぞ、おすきになさってください」とのことでした。 さて、あの時代の偉大な3先生の、そろいぶみ。これを、まとめてのこせたら、なんときもちのいいことか。そこで文庫をつくろうと、おもいたちました。たてものだけたてても、その後の運営に、また、おかねがかかります。そこを節約するために、一階部分にはテナントにはいってもらいました。そこで「うおや」が食堂「一鰭(いちびれ)」を経営します。「うおや」の社長である上村隆史さんが、わたしの村上高校時代の同級生なので、たすけてくれました。これからは、かれとの二人三脚です。 みなさまも是非、おたちよりください。かおりたかいコーヒーでも、おのみになりながら、どうぞ先達ののこされた古典の世界で、おあそびください。
以上


